綿の加工

綿摘み

綿摘み蒴果がはじけると中から白い繊維の塊が姿を現します。そのまましばらく置いておくと塊がフワフワにふくらんできて、かわいいコットンボールとなります。

和綿のコットンボールは洋綿に比べて小ぶりで、下向きにはじけます。洋綿のコットンボールの方が大ぶりで、概ね上向きにはじけます。
はじけたコットンボールをそのまま畑に長く置いておくと、雨に打たれたり、埃がつきますので(和綿の場合は繊維が垂れ下がり、地面に落ちてしまう)、様子を見ながら順次摘み取ります。午前中は朝露に濡れていることが多いため、できればよく晴れた日の午後から収穫します。

摘み取る際は、固く尖っているコットンボールの殻の先端に注意して、手を傷つけないように気をつけます。綿の摘み取り作業で手を傷つけることがあるのは、コットンボールの殻であって枝に棘(トゲ)があるわけではありません。 また、摘み取る際には綿の繊維以外の枯れ葉などが混ざらないように気をつけます。

摘み取った綿を「実綿(みわた)」と呼びます。
実綿はしばらくカゴに入れて、風通しのよい場所で十分に乾燥させます。

綿繰り(種取り)

種取り乾燥させた実綿を、ロクロと呼ばれる綿繰り機(わたくりき)にかけて、種と繊維とに選り分けます。この作業を「綿繰り(わたくり)と呼びます。
ロクロの原理は、2本のローラーの間に実綿を送り込み、固い種だけを絞り出す仕組みになっています。江戸時代の文献にも出てくる伝統的な方法です。ローラーの隙間が広すぎると、種が押し潰れて一緒にくぐり抜けてしまいます。逆に隙間が狭すぎると、繊維が通らなくなります。ローラーの間隔を調節しながら作業を進めます。

和綿は繊維が比較的短いので、種と分離しやすく、綿繰り作業を比較的楽に行うことができます。洋綿は繊維が比較的長いので、種と分離しにくく、ローラーの隙間の調節など、慣れるまでは少し難しく感じます。

種を取り除いた繊維を、「繰り綿(くりわた)」と呼びます。

1時間あたりの仕事量(熟練の場合)は、
和綿(実綿) 450g  繰り綿120g  種330g
洋綿(実綿) 336g  繰り綿126g  種210g

綿打ち

綿打ち繰り綿はローラーによって圧縮されており、その中には種の殻や葉ゴミが混じっていることが多くあります。ゴミを取り除きながら綿の繊維をほぐす工程が「綿打ち」です。
綿打ちには「棉弓」を用います。弓の弦で、繰り綿をはじき飛ばす作業を繰り返すことによって、綿の繊維は次第にほぐれていきます。そして、同時にゴミが除去されていきます。

綿弓には、竹を用いた竹弓と、固い材木を使った大型の唐弓があります。

江戸時代に唐弓が導入されたことによって、作業効率が格段に向上したことが井原西鶴の『日本永代蔵』に記されています。真偽のほどはともかく、その唐弓を発明したのは木綿庵の所在地(天理市乙木町)から500メートルほどのところにある天理市佐保庄の住人とされています。

綿弓を用いた「綿打ち」には相当の時間が必要になりますので、木綿庵では綿打ち業者(製綿業者)に依頼して、機械打ちをお願いしています。
機械打ちされた綿は、シート状になっており、そのシートを折り畳んだ状態で納品されてきます。綿打ちされた綿を、「打ち綿」と呼びます。

糸紡ぎ

糸紡ぎシート状の打ち綿を、15センチ四方ほどの大きさに裂き、やさしく棒状に丸めます。こうして出来上がったものを「じんき」と呼びます。漢字表記はされないようです。また「じんぎ」と記されている文献もあります。地方によっては「しの」とも呼ばれるようです。
なお、じんきの大きさや丸めるときの圧の強弱は、糸を紡ぐ人の好みによってまちまちです。

糸車を用いて、じんきから糸を紡いでいきます。糸の細さや撚りの強弱は、このときの手加減によって自由自在に変えることができます。ただし、一定の細さで紡ぎ続けることができるようになるためにはある程度の熟練を要します。特に細くて強い糸を作ろうと思うほど難易度は高くなります。
途中で糸が切れた場合は、切れた糸の先端をじんきの上に載せるだけで、糸は自然とつながります。

糸車を用いての糸紡ぎは、昔はどこの家庭でも子供の頃から習い覚えていくものであったそうで、最初は難しく思われますが、根気よく続ければ誰でも出来るようになります。

 糸車のツムに巻き取った糸を、綛上げ機(かせあげき)にかけて繋いでいきます。綛上げ機にかけることで、糸の長さ(1綛の長さ)を自由に調節することができます。
綛上げの途中で糸が切れた場合は、「機結び(はたむすび)」という結び方で繋ぎます。この機結びは、機織りの最中に糸が切れた場合にも用います。

精錬

綿はセルロースというブドウ糖が長くつながった物質(多糖類)でできているため、手紡ぎした段階ではまだセルロース繊維の表面にペクチン(これも一種の多糖類)とか脂質などの天然不純物や汚れが付着しています。これらを取り除き、染色や機織りを問題なく行えるようにするための下処理を「精練(せいれん)」と呼びます。

精錬には通常、苛性ソーダを用いますが、劇薬指定の薬品でもあるため、木綿庵では中性洗剤を用います。糸の重量の30倍の水で、糸の重量の2%の中性洗剤を加えて約1時間煮沸します。
その後、よく水洗いしてから天日に干して乾かします。
※干すときに、綛糸の下に水を入れたペットボトルを吊り下げておくと、糸が安定します。

精錬したものを長期間置くと水を吸いにくくなるので、なるべく染色する前に精錬した方がよいようです。

染色 (草木染め)

草木染めとは

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植物染料を媒染剤で発色、定着させて染める方法を草木染めと言います。
ただ、植物を煮出した染液に浸けるだけでもそれなりに色は染まりますが、極端に色が薄かったり、水洗いするとすぐに色落ちがしてしまいます。

媒染剤とは

植物染料を発色させるために掛け合わせる金属のことで、特に染色用として水に溶ける金属塩のことを指します。
植物を煮出した染液に浸けるだけでは発色が不安定で、堅牢度(けんろうど)も弱くなりがちですが、媒染剤を掛け合わせることにより、いろいろな色に変化して発色し、同時に生地に定着し、堅牢度が格段に良くなります。

用いられる媒染剤にはアルミ、錫、鉄、銅などがあります。
草木灰も媒染剤となり、椿の焼却灰は特にすぐれた媒染剤となります。
同じ染液でも、媒染剤を変えることによって異なった色に発色します。

木綿を草木染めする場合の注意点

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木綿や麻などの植物質繊維と、絹や羊毛等の動物質繊維とでは、草木染めにおける色の染まり具合は極端に違います。
木綿や麻などの植物質繊維には、植物染液も、媒染剤もそのままでは付着しません。染まったように見えても、一度洗うとすぐに流れてしまいます。
したがって、植物質繊維に色素を定着させるためには、タンパク質を付着させる「前処理」という工程が必要になります。
この前処理には、昔は大豆の煮汁や牛乳が用いられていたようですが、においがついたり、カビが生えやすいなどの課題がついてまわりました。
最近は、KLCという前処理剤(植物染料用の濃染処理剤。参照:田中直染料店)が開発されていますので、これを用いると便利です。
なお、絹や羊毛などの動物質繊維の場合は、この前処理は必要ありません。

クサギ(臭木)染め

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天然のもので、青い色が出せる植物染料は2つしかなく、その一つが「クサギ(臭木)」です(あとの一つは「藍」)。
クサギの実は、「青い宝石」と呼ばれていて、9月末から10月中頃にかけて実を結びます。
宝石を包みこむようにしてついている赤い部分は萼で、萼から実を取り出す作業は結構根気のいる作業になります(時間のない場合は、萼をつけたまま煮ても特に問題はありません)。
ただ、その一方で、クサギには他の植物にはないすぐれた性質があります。
それは、発色をよくしたり、色を定着させるための「媒染」という工程が必要ないのです。
つまり媒染剤を用いることなく色を発色、定着させることのできるきわめて稀な植物なのです。

クサギ染めの手順
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1. KLC(前処理剤)+ネオソーダ、酢酸液に、対象となる布を浸けて軽く脱水しておく。
2. 布の重さの3倍のクサギの実を鍋に入れる。鍋はステンレスかホウロウを用いる。
3. 2の鍋に布の重さの50倍の水を入れて火にかける。
4. 沸騰したら弱火にして1時間煮る。
5. できた染液を濾す。
6. 40℃まで冷ました染液に脱水した布を入れ、煮る。
7. 沸騰したら弱火で30分煮る。
8. 布を取り出してぬるま湯で色が出なくなるまですすぐ。
9. 軽く脱水して、色の好みに応じて6~7の作業をくり返す。
10. よくすすいでから、干す。

※クサギは媒染の必要がない珍しい植物です。
※上記手順で「煮る」際に、鍋に蓋はしません。
※「5」で濾した実を再び鍋で煮ることによって、二染目の染液を作ることができます。
※布を染液に浸す際に、布の端を糸で括っておくなどの工夫によって、さまざまな絞り模様をつけることができます。
※煮る時間や水の量などはすべて目安です。いろいろなパターンで仕上がりを比べてみて下さい。

機織り

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